僕は、暗い海を彷徨うダイバー。
海中には、僕を襲う巨大な鮫。
海面には、僕と空気を隔てる分厚い流氷。
僕は鮫に襲われながら海面を目指すけれど、流氷が邪魔でなかなか海面に上がれない。
ボンベの空気は減るばかり。
逃げて逃げて体力もどんどん失われて、やっと海面に出たと思ったら、今度は日差しが強すぎる。
結局また僕は、暗い海に戻って流氷の下に潜る。
鮫が襲ってこないことを祈りながら、僕は海中でじっとしていた。
眩しい海上にも暗い海中にも、僕の安心できる居場所はどこにも無かった。
だから、僕は残り少ないボンベを背負って、ただ深く、日差しも流氷も鮫も何も無い深い海底へと沈んでいくしかなかった。
一時は苦しいけれど、その先に安心があると信じて。
一寸先も見えない闇の中で、淡い光を夢見ながら、流れに身を任せつつ僕はそっと目を閉じて、最後の空気を吸い込んだ。
本を出版して1年が経ちました。
読んでくださった方々、誠にありがとうございました。